宇佐美まゆみ監修(2018)『BTSJ日本語自然会話コーパス(トランスクリプト・音声)2018年版』について
国立国語研究所では、機関拠点型基幹研究プロジェクト「日本語学習者のコミュニケーションの多角的解明」、サブ・プロジェクト「日本語学習者の日本語使用の解明」(リーダー:宇佐美まゆみ)の研究成果として、『BTSJ日本語自然会話コーパス(トランスクリプト・音声)2018年版』を公開します。
1. 公開の目的
近年、自然会話分析が数多く行われるようになり、話し言葉コーパスも様々な種類のものが公開されるようになりつつあります。しかし、形態素解析や構文分析、音声学的分析等のためだけではなく、人間の相互作用としての「言語運用」の語用論分析に適した形で文字化され、蓄積された「自然会話のコーパス」は、未だほとんどないのが現状です。しかし、会話の収集、文字化といった基礎的作業には多大な時間と労力を要するからこそ、自然会話分析研究を効率的に進めていくためには、自然会話データを研究者間で共有化することが必須です。このような状況を受けて、本コーパスは、自然会話データを研究者間で共有化することによって、自然会話データを用いた研究を促進することを企図しています。
2. 本コーパスの特徴
本コーパス構築のもう一つの目的は、未だ存在しない「相互行為としての会話」の対人コミュニケーション論、語用論的分析に適したコーパスを構築することです。そのために、以下の3点を重視しました。①「言語社会心理学的アプローチ」(宇佐美1999)、「総合的会話分析」(宇佐美2008)の方法論に基づき、会話参加者の年齢、性別、話題などを統制したデータ群を収録する。②発話の重なりや沈黙など、語用論的分析に不可欠な情報を記して細やかな定性的分析を可能にするとともに、各研究者が独自の観点から分析項目のコーディングや集計などの定量的分析を行うことができる文字化のルールである「基本的な文字化の原則」(BTSJ:Basic Transcription System for Japanese)によって文字化したトランスクリプトを収録する。③「人間の相互作用としての会話の分析」は、「会話自体」の分析のみならず、「録音された会話以外の社会的要因」の分析も重視する。そのため、各会話グループのデータ収集条件や話題、話者の年齢・性別・職業、その他の属性の情報も提供する。
このように、当コーパスに収録された会話は、グループごとに、収集の目的や、会話の条件が統制されているため、グループごとの目的・条件を確認し、研究目的に応じて、話者の属性(年齢、性別等)や対話相手との関係などの、話者の話し方に大きな影響を与える社会的要因を考慮に入れた分析が可能です。これが、本コーパスの最大の特徴であると言っても過言ではないでしょう。
本コーパスの公開の最大の目的は、未だ質的分析に留まっている「言語運用」に重きをおいた「語用論的研究」の妥当性や信頼性を高めるために、より多くの条件統制されたデータでその知見を計量的にも検証できるようにし、人間の相互作用、言語運用に重きをおく「語用論的研究」の幅を広げ、大量データの形態素解析などのような言語形式の機械的な分析だけではなく、話者間の上下、親疎関係などの実際の言語運用と人間関係の構築に極めて重要な情報や、文レベルを超えた談話の流れ(文脈)を十分に考慮した分析を促すことによって、自然会話をデータとする言語運用、人間の相互作用の研究の発展を促進することです。ただし、もちろん、計量的分析、形態素解析等を活用した研究にも、ご活用いただければと思います。この人間の相互作用の分析に適した形の本コーパスが分野を問わず広く利用され、自然会話をデータとする言語運用研究、言語研究の発展の一助となることを願っています。
3. 本コーパスの前身からの拡張、改訂点について
宇佐美研究室では、多様な場面・言語(日本語、韓国語、中国語、英語など)の自然会話データを収集し、『BTS(Basic Transcription System)による多言語話し言葉コーパス』の構築に取り組んできました。2011年までに、研究成果として公開していたコーパスは以下の4つです。
1.『BTSによる多言語話し言葉コーパス-日本語会話1(日本語母語話者同士の会話)2007年版』116会話、1435分54秒(約24時間)
2.『BTSによる多言語話し言葉コーパス-日本語会話2(日本語母語話者と学習者の会話)2007年版』35会話、691分11秒(約11時間)
3.『BTSJによる日本語話し言葉コーパス-日本語会話1(初対面・友人、雑談・討論・誘い)』99会話、1604分(約27時間)
4.『BTSJによる日本語話し言葉コーパス(トランスクリプト・音声)2011年版』294会話、4000分31秒(約66時間)(上記①から③のコーパスに、新たに44会話(約4時間)のトランスクリプト・音声データを追加。また、既存のトランスクリプトに音声データ92会話(約14時間)を追加)
この度、国立国語研究所のプロジェクトとして、上記4のコーパスに、新たに39会話753分15秒(約12時間)のトランスクリプトと音声データを追加し、また、既存のトランスクリプトに、音声データ24会話401分5秒(約6時間40分)を追加し、公開することになったのが、本コーパスです。合計333会話、総時間4746分24秒(約79時間)の会話が収録されており、そのうち音声付きデータは203会話、2402分22秒(約40時間)です。
整備にあたっては、話者記号などを話者や会話の特徴がより分かりやすい記号に変更し、トランスクリプトの記号の表記は『基本的な文字化の原則(BTSJ: Basic Transcription System for Japanese)2015年改訂版』に統一するなど、全面的に改訂を行いました。(話者記号の詳細は、コーパスに付随して提供されている「本コーパスに収録されているデータの情報一覧」というエクセルファイルのシート「話者情報の注(話者記号の説明)」などをご参照、ご確認ください。
また、当コーパスに収録された会話には、グループごとに、収集の目的や、話者や会話の条件が記されています。「本コーパスに収録されているデータの情報一覧」(エクセルファイル)で、会話グループごとの目的や条件を確認し、各人の研究目的に応じて使用することを推奨します。また、グループデータ情報の詳細については、4.の表1『BTSJ日本語自然会話コーパス(トランスクリプト・音声)2018年版』に収録されている会話データの概要」をご参照ください。また、更に詳しい情報に関しては、コーパス内の「本コーパスに収録されているデータの情報一覧」というエクセルファイルのシート「会話グループ情報」をご参照ください。
4. 本コーパスの概要と活用法
本コーパスに収録されている会話は、会話参加者の年齢、性別、話題などが統制された形で集められていますので、様々な観点から比較・対照研究ができるようになっています。会話データは、収集の条件や研究目的ごとに、ひとつの「会話グループ」のフォルダに入っています。
また、BTSJの背景理論となる言語社会心理学、及びその方法論である「総合的会話分析」では、会話自体の分析のみならず、データの収集法、被験者の属性調査など、「録音された会話」以外の部分の分析も、人間の相互作用としての「会話分析」のために、極めて重要だと捉えています。各会話グループの実験計画や話者の年齢・性別・属性等のデータも入っていますので、是非、分析にご活用ください。
5. 本コーパスの引用について
宇佐美まゆみ監修(2018)『BTSJ日本語自然会話コーパス(トランスクリプト・音声)2018年版』を利用した研究を、論文等、何らかの形で発表する際は、必ず、以下の正式名称を、出典として明記してください。
【引用文献リストや資料リスト等に記載する場合】
<日本語の場合>
宇佐美まゆみ監修(2018)『BTSJ日本語自然会話コーパス(トランスクリプト・音声)2018 年版』、国立国語研究所、機関拠点型基幹研究プロジェクト「日本語学習者のコミュニケーションの多角的解明」、サブ・プロジェクト「日本語学習者の日本語使用の解明」(リーダー:宇佐美まゆみ)
宇佐美まゆみ監修(2018)『BTSJ日本語自然会話コーパス(トランスクリプト・音声)2018 年版』、国立国語研究所、機関拠点型基幹研究プロジェクト「日本語学習者のコミュニケーションの多角的解明」、サブ・プロジェクト「日本語学習者の日本語使用の解明」(リーダー:宇佐美まゆみ)
<英語の場合>
USAMI, Mayumi (ed.) (2018) BTSJ Natural Conversation Corpus with Transcripts and Recordings (2018), NINJAL Institute-based projects: Multiple Approaches to Analyzing the Communication of Japanese Language Learners, Sub-project: Studies on the language use of Japanese language learners, leader: Mayumi Usami.
USAMI, Mayumi (ed.) (2018) BTSJ Natural Conversation Corpus with Transcripts and Recordings (2018), NINJAL Institute-based projects: Multiple Approaches to Analyzing the Communication of Japanese Language Learners, Sub-project: Studies on the language use of Japanese language learners, leader: Mayumi Usami.
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